「頭使ってごらん」と言ったら、友達が泣いた ― 通訳の訳が長い理由
「頭に入れてください」「頭使ってごらん」。日本語ではそんなに強い言い方に聞こえませんが、そのままタイ語に直すと、相手を責める言葉に聞こえてしまうことがあるそうです。通訳の訳が長いのには、理由がある。タイ人のちゅうちと、タイ人の通訳90人に聞いた調査の論文をもとに話してみました。
タイ人通訳90人の調査
ちゅうちが紹介してくれたのは、ラッチャニー先生の論文です。タイにある日本企業で働くタイ人の通訳90人に、仕事で困ったことや、日本の働き方・文化からくる難しさを聞いた調査で、データは2016年ごろ、ほぼ10年前のものだそうです。その中でも、通訳さんが訳しにくいと感じる言い回しとして目立ったのが、「頭」の付く言葉でした。
「頭に入れてください」は悪口に聞こえる
「頭に入れてください」は、私にはそんなに強い言い方に聞こえません。「覚えておいてね」くらいの感覚で使ったことがある方もいると思います。ところがタイ語にそのまま直すと、「お前は頭が悪いから、ちょっと覚えておけよ」というような、悪口に聞こえてしまうそうです。「頭使ってごらん」も、そのまま訳すと「今、頭を使っていないでしょう」という、責める響きになります。
私の「頭使ってごらん」の失敗
これは私自身の経験でもあります。たしかレストランか何かで、タイ人の友達と間違い探しのようなパズルをしていたときのことです。友達が全然わからない様子だったので、「自分で考えてみなよ」くらいの気持ちで、日本語で「頭使ってごらん」と言いました。責めるつもりはまったくなかったのですが、友達は罵倒されたように感じて、ショックを受けて泣いてしまいました。そんなことは全然知らなかったので、本当にびっくりしました。
「困ります」は訳せない
通訳の経験があるちゅうちも、頭の付く言葉で困った場面は1、2回くらいで、むしろ「困ります」のような表現が訳しにくいと話していました。そのままタイ語にすると、「どういうこと?」という顔をされるそうです。「できません」なのか、「ここでは認められません」なのか。通訳さんは、文脈によって意味を補いながら訳しています。
訳が長いのには理由がある
通訳が入って訳が自分の発言より長いと、「なんでそんなにタイ語が長いんですか」と怒ってくる日本人もいます。でも通訳さんは、「そのまま言っても伝わらない」「そのまま言ったら喧嘩になる」と考えて、日本語とタイ語の橋渡しをしています。もちろん、うまい通訳さんほど訳は短い、ということもあると思います。言葉を知っていればそのまま訳せますが、知らない言葉は説明が要るので長くなってしまうんです。でも、長いなと思ったときは、「余計なことを言っている」と思う代わりに、「私の発言で明確でなかったところを補ってくれている。ありがとう、通訳」と思っていただけたらうれしいです。
ほかにもありました
論文には、ほかにも面白い例がいくつか載っています。たとえば、日本人の上司が「チェックしてください」と言うとき、「この場で全部確認しろ」という意味のこともあれば、「現場の人に連絡して、自分で情報を集めてこい」という意味のこともあります。ところがタイ人の側は、「わかりました、チェックします」と答えても、「この会議が終わったら、知っている人に聞いて確認する」という意味で受け取っていることがある。そのずれが、通訳さんには見えていたそうです。通訳という立場なのに、ゴルフ場や二次会のレストランの予約まで、いろいろな仕事がある、という通訳さん自身の苦労も書かれていました。論文は基本的にタイ語ですが、今はいろいろな翻訳ツールを使えば、なんとか読めると思いますので、ご興味のある方はぜひどうぞ。
皆さんの会議で、通訳さんの訳が自分の発言より長かったとき、何が足されていたと思いますか。よかったら一度、通訳さんに聞いてみてください。
出典
รัชนี ปิยะธำรงชัย(ラッチャニー先生)(2018)「บทบาทและปัญหาความแตกต่างทางวัฒนธรรมในการทำงานของล่ามภาษาญี่ปุ่นชาวไทย ภายใต้บริบท "ความเป็นญี่ปุ่น" : กรณีศึกษาบริษัทญี่ปุ่นในนิคมอุตสาหกรรมของไทย」『วารสารภาษา ศาสนา และวัฒนธรรม』第7巻第2号
https://so03.tci-thaijo.org/index.php/gshskku/article/view/137056
このシリーズでは、日本人の私とタイ人のちゅうちの2人で、日本やタイの文化や考え方について考察を深めています。どちらが良い・悪いという話はしません。
出演: 藤岡諒/ちゅうち 運営: Michi & Co., Ltd.(バンコク)