コラム

なぜタイ人は定時に帰るのか。先輩に言われた「お前はゲームの遊び方を間違えてる」

私はタイで働き始めて2〜3年たったころ、定時を過ぎても会社に残る日が1週間ほど続いたことがあります。新人のころと違って仕事が分かってきて、任せてもらえることも、自分でやりたいことも増えていました。やろうと思えばどこまでもやれる感じがして、楽しかったのです。残ったといっても、1時間ぐらいのものでした。

そのとき、タイ人の先輩に言われたのが「お前はゲームの遊び方を間違えてる」という一言です。

決められた時間の中で終えるのが仕事

先輩が言いたかったのは、仕事とは決められた労働時間の中でやることをやるものだ、ということでした。それを超えてずっと続けているのは、ある意味でルール違反で、進め方を間違えている、というわけです。私は自分がやりたくて残っていたのですが、そう言われて、なるほどと思いました。決まった時間で終わらせることこそが仕事なのだと感じたのです。それを超えるのは異常事態か、やり方がどこかおかしいということです。その先輩からは、むしろ残業のほうがかっこ悪い、という雰囲気も感じました。もちろん、タイの人がみんなそう考えているとは限りません。あくまで私の経験です。

日本では、ちょうど逆

この話をすると、ちゅうちは「日本人はちょっと逆だよね」と言いました。日本ではみんなが残業しているので、自分だけ残業していないと、なぜだろうと気になってくるそうです。ちゅうち自身、日本で働いていたころは、残業しない日があったかなと思うくらい残業していたといいます。そしてタイに戻ってきたときには、みんなもう帰っているのに、なぜ自分だけ働いているのだろうと思ったこともあったといいます。そこから少しずつ慣れていったそうです。

話していて面白いと思ったのは、定時を過ぎて働くことへの意味づけが、まるで違うことです。日本の例でいえば、契約では定時で終わるはずです。それでもみんなが残っているので、残らない人が「なぜあなたはやらないのか」と見られてしまいます。一方で先輩の見方では、仕事は定時までに終わらせるもので、それを超えているのは遊び方がおかしいということになります。同じ残業でも、受け取られ方がこれだけ違うのです。

ドイツでは「それなら人を雇おう」

その後、私は転職してドイツで働きましたが、そこでも近い話をよく聞きました。残業がいつも続いているなら、それは人手が足りていないということで、それなら人を雇おう、という考え方です。実際にはそう簡単にいかないところもあると思います。それでも、考え方としては確かにそうだと感じていました。そう考えると、定時や残業に対する考え方は、日本のほうがある意味では特殊なのかもしれません。

定時のあとにあるもの

タイならではの事情もあると思っています。一つは渋滞です。バンコクでは、オフィスを出る時間が10分違うだけで、家に着くのが1時間、下手をすると2時間遅くなることがあります。あと30分頑張れば終わる仕事もあるでしょう。それでも運転して帰る身からすれば、その30分で帰りがさらに遅くなるなら「明日やるか」となるのかもしれません。

もう一つは、仕事のあとの時間です。私は公園の近くに住んでいますが、夕方になると、走る人や、エアロビのようにダンスをする人でいっぱいになります。ちゅうちによると、健康のためにランニングをする人が増えているそうです。決まった時間まで働いて、そのあとは運動をしたり、友達とご飯に行ったりする。当たり前といえば当たり前の話ですが、だからこそ定時で仕事を終えて、自分の時間に充てているのだと思います。

「責任感がない」と見える前に

責任感を持って一生懸命残って働いていると、定時に帰る人が「責任感がない」ように見えることがあるかもしれません。でも、その人の定時のあとには、それぞれの生活や事情があります。そこに目を向けると、「頑張っている自分と、責任感のない人たち」という見方を超えられるかもしれません。新しい関係や物の見方もできるのではないかと思います。

定時に帰る同僚を見て、なぜ「責任感がない」と感じてしまうのでしょうか。皆さんはどう考えますか?

この番組では、日本人の私とタイ人のちゅうちの2人で、日本やタイの文化や考え方について考察を深めています。どちらが良い・悪いという話はしません。

出演: 藤岡諒/ちゅうち 運営: Michi & Co., Ltd.(バンコク)